2011年04月26日

4月26日 第177回国会「科学技術・イノベーション推進特別委員会」第3号(1)

 
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/177/0233/17704260233003c.html

第177回国会 科学技術・イノベーション推進特別委員会 第3号
平成二十三年四月二十六日(火曜日)
    午前九時開議
 出席委員
   委員長 川内 博史君
   理事 阿知波吉信君 理事 稲見 哲男君
   理事 熊谷 貞俊君 理事 空本 誠喜君
   理事 津村 啓介君 理事 馳   浩君
   理事 松野 博一君 理事 遠藤 乙彦君
      石田 三示君    石津 政雄君
      石森 久嗣君    小川 淳也君
      太田 和美君    勝又恒一郎君
      金森  正君    川島智太郎君
      岸本 周平君    熊田 篤嗣君
      阪口 直人君    菅川  洋君
      平  智之君    竹田 光明君
      玉置 公良君    豊田潤多郎君
      中川  治君    野木  実君
      本多 平直君    山崎  誠君
      柚木 道義君    江渡 聡徳君
      河村 建夫君    近藤三津枝君
      佐田玄一郎君    塩谷  立君
      谷  公一君    吉野 正芳君
      斉藤 鉄夫君    宮本 岳志君
      阿部 知子君
    …………………………………
   内閣府大臣政務官     阿久津幸彦君
   参考人
   (原子力委員会委員長)  近藤 駿介君
   参考人
   (原子力委員会委員長代理)            鈴木達治郎君
   参考人
   (原子力委員会委員)   秋庭 悦子君
   参考人
   (原子力委員会委員)   大庭 三枝君
   参考人
   (原子力委員会委員)   尾本  彰君
   衆議院調査局科学技術・イノベーション推進特別調査室長           上妻 博明君
    ―――――――――――――
委員の異動
四月二十二日
 辞任         補欠選任
  泉  健太君     空本 誠喜君
  三日月大造君     熊田 篤嗣君
同月二十六日
 辞任         補欠選任
  阪口 直人君     岸本 周平君
  河井 克行君     近藤三津枝君
  吉井 英勝君     宮本 岳志君
同日
 辞任         補欠選任
  岸本 周平君     阪口 直人君
  近藤三津枝君     河井 克行君
  宮本 岳志君     吉井 英勝君
同日
 理事泉健太君及び三日月大造君同月二十二日委員辞任につき、その補欠として空本誠喜君及び稲見哲男君が理事に当選した。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 理事の補欠選任
 参考人出頭要求に関する件
 科学技術、イノベーション推進の総合的な対策に関する件(原子力政策について)
     ――――◇―――――
○川内委員長 これより会議を開きます。
 理事の補欠選任についてお諮りいたします。
 委員の異動に伴い、現在理事が二名欠員となっております。その補欠選任につきましては、先例により、委員長において指名するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○川内委員長 御異議なしと認めます。
 それでは、理事に
      稲見 哲男君 及び 空本 誠喜君
を指名いたします。

     ――――◇―――――

○川内委員長 この際、阿久津内閣府大臣政務官から発言を求められておりますので、これを許します。阿久津内閣府大臣政務官。

○阿久津大臣政務官 内閣府大臣政務官の阿久津幸彦でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 初めに、このたびの東日本大震災でお亡くなりになられた方々とその御遺族に対しまして深く哀悼の意を表しますとともに、また被災者の皆様に心からお見舞いを申し上げます。
 科学技術政策、宇宙開発戦略、知的財産戦略及びIT戦略等の政策を担当する大臣政務官として、玄葉大臣、平野副大臣とともに、科学技術・イノベーションの推進に向けて力を尽くしてまいりたいと考えておりますので、川内委員長初め、理事、委員各位の御指導と御協力をよろしくお願い申し上げます。

     ――――◇―――――

○川内委員長 科学技術、イノベーション推進の総合的な対策に関する件、特に原子力政策について調査を進めます。
 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。
 本件調査のため、本日、参考人として原子力委員会委員長近藤駿介君、同委員長代理鈴木達治郎君、同委員秋庭悦子君、同委員大庭三枝君及び同委員尾本彰君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○川内委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

○川内委員長 参考人各位には、本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
 それでは、議事の順序について申し上げます。
 まず、参考人からそれぞれ十分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に簡潔、端的にお答え願いたいと存じます。
 それでは、まず近藤参考人にお願いいたします。

○近藤参考人 おはようございます。
 本日は、私どもに発言の機会を与えていただきましたこと、感謝申し上げます。

 本年三月十一日、三陸沖を震源地とするマグニチュード九・〇の巨大地震が発生いたしまして、東北地方沿岸部を中心に広い地域を巨大な津波が襲い、多くの貴重な命が失われました。犠牲者の方々に心からの哀悼の意をささげたいと思います。

 また、東京電力福島第一原子力発電所の一号機から三号機は、サイトを襲った津波が想定をはるかに超えるものであったために、熱の最終逃がし場を失い、大量の放射性物質を放出するに至りました。

 原子力災害特別措置法十条、第十五条の通報を受けた政府は、直ちに原子力災害対策本部を立ち上げ、原子力発電所周辺に避難地域や屋内退避地域を設定し、周辺住民の皆様に避難や屋内退避をお願いいたしました。また、実際に放射性物質が周辺各地で検出されたことを踏まえて、そのレベルに応じて、さらに広範な地域で放射線安全の観点からの取り組み、御協力をお願いしていると承知しております。

 原子力委員会は、原子力政策の一環として、原子力災害の防止の取り組み、万一の重大事故の際に備えての原子力防災計画の取り組み、そして原子力損害賠償制度を整備、充実することを関係各省に求めた上で、原子力施設を国民生活の水準向上に寄与するものとして、立地地域の皆様がこれと共生できる条件を整備することを重要施策としてまいりましたので、それにもかかわらず、この事故が発生し、国民の皆様、とりわけ発電所周辺に居住されているゆえに避難された皆様、屋内退避を強いられた皆様、農産物等の生産者の皆様が不安の最中にあり、また避難所で大変不便な生活を強いられておるなど、甚大な被害をこうむっておられることについては、まことに申しわけなく存じ、深刻に受けとめている次第でございます。

 また、私個人としまして、若いときから研究者として、政府におけるこうした制度の整備のお手伝いをしてまいりましたが、そうした仕組みが今日、到底十分なものとは言いがたい、十分に機能しているとは言いがたいことに関しまして、みずからの至らなさを思い知らされ、深くおわびの気持ちを持っている次第でございます。

 さて、原子力委員会は、皆様御存じのとおり、政府の原子力災害対策本部に法律上の位置づけはございませんが、事故発生以来、こうした不安と不便の最中にある多数の皆様の御苦労と御心痛を片時も忘れることなく、この災害対策本部の事故の収束に向けての取り組み、及び避難、屋内退避に伴って不安、不便をおかけしている皆様に、放射線安全を第一に、生活基盤を確保していくことについての適切な措置が講ぜられるよう、できるだけ多くの内外の知見と専門家に寄与していただくことに対して努力をしてきた次第でございます。

 同時に、現在も他の地域においては、余震が続く中、原子力発電所が運転を続けているわけでございますから、こうした地域の皆様の不安にも思いをはせる必要がございます。

 そこで、先般、政府が、たとえそれぞれの発電所が想定を超える津波に襲われたとしても大きな被害を発生しないで済む備えを緊急に用意するべきとの観点から、いわゆる緊急安全対策を取りまとめ、事業者においてこれを速やかに実施することを求めた際に、私どもとしましては、もちろん所掌は原子力安全委員会でございますが、それにもかかわらず、この取り組みを重要とし、関係者がこの取り組みを的確に行い、さらにその内容の妥当性を立地地域社会の皆様に丁寧にきちんと御説明していくことが大事であると、原子力安全・保安院並びに事業者にお願いをしたところでございます。

 ところで、皆様御承知のとおり、原子力基本法は、原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨とし、民主的な運営のもとに、自主的にこれを行うものとして、その成果を公開し、進んで国際協力に資することとした上で、原子力委員会に対して、これを通じて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することという目的を達成するために、政府が計画的に取り組むべき施策を決定する責任を課してございます。

 そこで、この責任を果たすために、原子力委員会は、この施策の基本的考え方を二〇〇五年に、平成十七年でしょうか、原子力政策大綱に定めました。

 この大綱の要点を申し上げますと、第一には、安全性、核不拡散、そして核セキュリティーを確保しつつ、国民の理解と協力を得ながら、原子力発電及び放射線が国民生活の水準向上に効果的に利用されるよう、安全規制、核物質に係る保障措置、核セキュリティーに関するリスク管理を徹底しつつ、人材育成、国民との対話と相互理解活動、関連産業体制の整備、核燃料サイクル及び放射性廃棄物の管理に至る諸活動を、原子力発電に関しましては、二〇三〇年以降も発電電力量の三〇ないし四〇%以上を担うことを目指して、体系的にかつ計画的に進めるべしということでございます。

 このうち、原子力防災を含む原子力安全規制に係る取り組みは、原子力安全委員会の所掌するところですので、私どもとしましては、しかしながら、この取り組みにおけるリスク管理の徹底が原子力利用の前提であるとして、その重要性を強調してきたところでございますが、それにもかかわらず今日の事態が発生しているのですから、その要請が不十分であったことを深く反省しているところでございます。

 第二は、研究開発の取り組みについて、第一に、現在利用されている軽水炉とその燃料サイクル技術、並びに学術研究から産業活動にまで多方面に利用されている多種多様な放射線発生装置の利用に関して、安全を確保しながら、より効果的、効率的な取り組みをなされるべくの、いわゆる短期的視点に立った取り組み、研究開発、それから第二に、現在利用されているこれらの装置がいずれ陳腐化するに違いないと考えて、これらを置きかえるための原子炉、例えば高速増殖炉やその燃料サイクル技術、そして粒子加速器等を用意するためのいわば中期的観点に立った研究開発、そして第三に、核融合に代表される革新的なエネルギー技術あるいは革新的な放射線発生装置、利用装置の実現可能性を探索するいわば長期的観点に立った取り組み、この三つの取り組みを適切な資源配分のもとで並行して推進するべしというものでございます。

 第三は、近年、各国においてエネルギー安全保障、地球温暖化対策が緊要な課題となっておりまして、再生可能エネルギー、原子力発電、二酸化炭素回収、貯蔵技術に関する研究開発や導入の取り組みが活発に進められておりますので、各国における原子力利用の取り組みが安全性、核不拡散、核セキュリティーを高い水準で確保しつつ推進されるよう共同するとともに、共有する短期的、中期的、長期的課題を解決するための多国間あるいは国際機関を通じての取り組みを積極的に推進するべしというものでございます。

 こうした内容を含みます大綱を定めましてから五年が経過いたしましたので、委員会は、昨年末から、今後十年を見据えた新しい原子力政策大綱を策定すべきかと考えまして、その検討を開始しましたが、福島原子力発電所の事故を受けまして、この四月、検討を中断することにいたしました。

 私どもといたしましては、当面は、まずはこの事故の収束への取り組み及び避難されている人々の暮らしの確立の取り組み、そして、その後の環境回復、必ず再び住める土地とするためのさまざまな取り組みに関係者が全力を注ぐこと、あわせて、我が国の電力供給のある割合を担っている原子力発電について、これが周辺住民の皆様の御理解を得つつ運転を継続できるよう、さきに触れました緊急安全対策の的確な実施と、さらに原子力施設をこの事故の教訓を踏まえてリスク管理の観点から十分なものにしていくこと、そして、これらの取り組みを進めるためには、これまでにも増して志の高い人材と知恵が必要でございますから、そうした人材の確保と関連する研究開発活動を充実する取り組みが的確になされるよう、政府に対して施策をお示ししていく所存でございます。

 また、今後の原子力発電の取り組みを考える場合、広範にわたる莫大な被害の発生に加えて、膨大な量の放射性廃棄物が発生しておりますし、まだ今後も発生し続けると考えられますので、この取り扱いに関しましては新しい考え方が必要ではないかと考えておりますし、さらには、今後、政府において、事故の根本原因分析を踏まえた我が国の原子力安全確保への新しい取り組みに向けた総括と提案の作業も、時宜を失せず行われると考えております。

 したがって、私どもは、こうした三・一一以後の我が国の原子力発電のあり方についての基本方針は、こうした取り組みを踏まえて検討なされるべきと考えております。

 私からは以上です。御清聴ありがとうございました。

○川内委員長 近藤参考人、ありがとうございました。
 次に、鈴木参考人にお願いいたします。

○鈴木参考人 おはようございます。鈴木でございます。
 このたびは、このような貴重な機会を与えていただき、まことにありがとうございます。福島原子力発電所事故を踏まえて、原子力政策について所信を述べさせていただきます。

 まずは反省の言葉です。原子力に長い間携わってきた研究者として、また、一年余りですが、原子力行政の責任を担う一人として、このような深刻な事故が起きましたことに対し、私自身、深く反省しております。特に、事故により故郷の地を離れることを余儀なくされた住民の皆様には本当に申しわけなく思っております。

 既に、今回の事故をめぐり、特定の組織とか個人の責任を指摘する御意見もありますが、今回の事故については、私は、原子力に携わってきたすべての人それぞれがその立場で責任を共有すべきものと考えておりまして、私自身、痛恨の思いでいっぱいであります。

 一方、事故直後から現場で日夜作業をされている方々や、収束に向けて協力を申し出てくださった方々には、感謝の思いで言葉もありません。さらに、個人的な話になりますが、国内外の友人や専門家から、それぞれの立場を超えてアドバイスや激励の言葉を多くいただいております。この場をかりて厚く御礼を申し上げたいと思います。

 では、本題の原子力政策についてお話しします。

 まずは、今回の事故に際し最優先で取り組むべき課題として四点、その上で、今後のエネルギー、原子力政策について三点ほど申し上げます。

 まず、事故関係についての第一番目は、この事故の持つ国際的な重要性と我が国の責任についてです。

 従来より、原子力では、世界のどこで深刻な事故が起きても世界じゅうに影響を与えるという認識のもと、安全の確保については国際協力、協調が基本となっております。今回の事故についても、我が国はもちろん、世界の原子力開発に深刻な影響を与えることが考えられます。この事故にかかわる情報は、国内のみならず世界と共有しなくてはいけません。我が国としては、情報の共有、収拾策、対応策の検討、今後の安全対策など、あらゆる面で国際社会に向けて情報を発信し、協力していく責任があると思います。

 また、事故当初より、情報の提供や説明の仕方などについて、国民とか国際社会から信頼を十分に得られていないという御指摘がありますが、これについては私は大変憂慮しております。今後、情報提供のあり方については、外部の第三者機関などの活用も含め、国民や国際社会から信頼される方法を検討していかなければならないと考えています。正確さと迅速さは実はトレードオフの関係にありますが、迅速さを優先させて、できるだけ情報を公開することにより、正確さは多くの人の検証を受けることでカバーできると考えております。

 第二に、事故調査のあり方です。

 この事故の重要性を考えますと、早急に事故の原因究明、改善策提言に向けての事故調査を開始する必要があると考えます。既に、枝野官房長官から独立の調査委員会という言及がありましたが、これまで以上に客観的で透明性を持った、国際的にも検証可能で信頼される調査の進め方が必要ではないかと考えています。

 事故調査は、もちろん日本政府が最終的に取りまとめる責任を有していますが、調査の透明性、信頼性を高める意味でも、また世界の知見を有効に活用するという意味でも、海外の専門家や国際機関に何らかの形で関与してもらう方法を考えるのが望ましいと私は考えています。また、航空事故調査委員会のように、ある程度の調査権限を法的に持たせ、調査のためには運転員などの免責も可能となるような仕組みも必要かと思います。

 三番目に、収束から地元復興に向けての体制づくりについてです。

 先日発表された東京電力のロードマップは、最終的な廃止措置に向けての第一歩です。今後も、数多くの技術的、政策的課題に挑戦しなければいけません。破損された使用済み燃料の取り扱い、大量の高濃度放射性汚染液の処理処分、汚染された大量の瓦れき対策や汚染土壌の処理など、従来の枠組みや規制では対応できない課題が山積みです。その際、この問題が国際的な重要性を持っていることや、世界の知見を集積すべきという観点から、国際的な連携を強化した体制にすることが必要と思います。

 また、周辺住民の安全確保と生活支援、風評被害の最小化あるいはなくすこと、それから賠償のあり方、避難解除から住民の復帰と長期的な地域の復興まで考えた包括的な計画が必要であり、そのための資金確保、技術開発など、縦割りを排した効率的な実施体制が必要だと思います。これらに長期的に対応できる体制を構築する時期に来ているのかと思います。

 これらの努力により、福島という言葉が、原子力災害の代名詞ではなく、災害から見事に立ち直る事例の代名詞となることを切に願っております。

 第四は、福島以外の既存原子力発電所及び施設の安全確保についてです。

 既に、原子力安全・保安院が緊急安全対策を公表していますが、既存の原子力発電所、これは停止中の原子力発電所も含みますが、その安全確保は、周辺住民にとっても、短期的なエネルギー需給を考えても、最も優先順位の高い政策課題と認識しています。原子力発電所以外にも、核燃料サイクル施設や研究施設など、重要な施設が数多く存在します。これらの安全確保も重要な課題であり、特に使用済み燃料の安全確保は早急に対策が必要と考えています。

 また、今回の事故は、核セキュリティー、いわゆる核テロリズム対策上も重要な意味を持っていると思いますので、この点についても対策を強化する必要があるかと思っています。

 ここからは今後のエネルギー政策についてです、原子力政策を含めて。

 世界的なエネルギー情勢や地球温暖化対策という観点から考えますと、原子力は重要な選択肢であると私自身は今でも考えております。しかし、原子力を進めるためには、安全の確保と国民の信頼が大前提であり、徹底した原因究明と、それを踏まえたこれまで以上の幅広い国民的議論が必要であると考えています。

 そこで、重要と思われる点を三点ほど申し上げたいと思います。

 第一に、エネルギー政策、原子力政策の意思決定プロセスの改善とそれへの国民参加のあり方です。

 原子力の役割や位置づけは、全体のエネルギー政策であるエネルギー基本計画で、これは閣議決定ですが、議論すべきものと考えますが、まず、この議論を国民的議論とするようなプロセスが必要です。

 この事故を踏まえ、国民が納得いく議論を行うには、これまでにない議論の場や手法が必要かと考えています。例えば、アメリカの原子力の将来に関するブルーリボン委員会のような首相直轄の特別賢人会議、または、国民参加を担保するようなやり方では、スイスで行われた市民参加による電力と社会会議などが参考になると考えます。

 次に、この政策議論の質を上げるためには、徹底した情報公開のイニシアチブが必要だと思います。

 これは、実は昨年、原子力委員会が発表した成長のための原子力戦略において、新しい情報技術を用いてだれもがアクセス可能なデータ公開イノベーションということを提言させていただきました。

 我が国では、政策決定にかかわるデータが不十分だと思います。また、国民が自由にアクセスできるような体制も余り整っていません。これが政策に対する透明性、信頼性不足につながっています。例えば、これまで日本には不足していると言われる独立不偏の立場からの科学技術の社会的影響評価、これはテクノロジーアセスメントと呼ばれますが、このような機関の設立なども検討すべきではないかと個人的には思っております。

 第三に、原子力予算についてです。

 原子力委員会は、原子力予算の企画、審議、決定をすることとなっていますけれども、今回の事故を踏まえて、この予算についても、福島の恒久措置を考えますと、優先順位を十分に検討し、聖域をつくらずに大幅な予算の見直しが必要だと考えています。

 最後になりますが、原子力委員会そのものの存在意義についても一言だけ述べさせていただきます。

 今回の事故対応でも痛感いたしましたが、助言組織としての原子力委員会の役割についても再検討する時期になるかと思います。安全規制体制の見直しに加え、原子力を含むエネルギー政策全体を総合的に検討する体制が必要と考えます。原子力の比率が非常に高いと言われていますフランスでも、代替エネルギー・原子力庁として総合的なエネルギー官庁になりました。この事故を契機に、エネルギー政策にかかわる省庁体制についても検討することが望ましいと考えます。

 私からは以上です。ありがとうございました。

○川内委員長 鈴木参考人、ありがとうございました。
 次に、秋庭参考人にお願いいたします。

○秋庭参考人 おはようございます。秋庭と申します。
 三月十一日の地震発生から一カ月半が過ぎましたが、福島第一原子力発電所の事故はいまだ収束せず、長期化が予想されています。国内外のありとあらゆる技術や知恵を結集して、一刻でも早い収束を願っております。また、この事故に伴い避難生活を余儀なくされている方々に、心よりお見舞い申し上げたいと思っております。

 原子力基本法第一条に、原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、人類の福祉と国民生活の向上のために寄与することを目的とすると書かれております。しかし、この事故により多量の放射性物質が環境に放出され、八万人を超える住民の皆様が避難を余儀なくされて、さらには野菜や魚の出荷制限や飲料水の摂取制限など、国民生活に不安を与えることになってしまったことは大変残念に思っております。

 私は、原子力委員に就任する以前は消費者団体やNPO法人で活動しておりましたので、本日は、国民の視点に絞って三点申し上げたいと思っております。

 まず第一に、避難なさっている方々への支援についてです。第二には、福島原子力発電所以外の原子力発電所の立地地域の住民の方たちへの情報提供、そして全国の国民への放射線、放射性物質についての情報提供についてです。そして第三に、今後の原子力政策の検討に当たっては国民参加の仕組みが必要である、この三点について述べさせていただきます。

 まず第一に、避難なさっている方たちへの支援についてです。

 安心、安全と言われていたのに、なぜこのような事故が起きて避難しなければならなくなったのか。原子力発電所と共生する町づくりを目指していたのに、田畑や家畜、そしてせっかく誘致した工場もすべて捨ておいて、遠く離れていなければならないのか。避難なさっている方たちの憤りや苦しみは、例えようがないほど大きいものと思います。しかも、その電気は、首都圏に送るための電気です。その怒りや苦しみに対して、安全確保が前提とはいえ、原子力を推進してきた原子力委員として大変申しわけなく思っております。

 原子力委員会は、組織的には、避難なさっている方々への直接生活支援をする、そういう役割ではありません。しかしながら、NPOの活動などを通じて私は立地地域の町長や住民の方々と交流があったため、いても立ってもおられず、新幹線が通じることを待って、休暇をとって四つの町の避難所にお見舞いに行ってまいりました。富岡町と川内村の一部が避難している福島ビッグパレット、そして先週末には、楢葉町、大熊町、そして隣接であります浪江町が避難している会津方面に行ってまいりました。

 それぞれの町長を初め役場の方々は不眠不休で働いており、そんな中、お話を伺うのは大変恐縮いたしましたが、どこでも町長は熱心にお話をしてくださいました。そのことが大変印象的でした。

 四人の町長が共通しておっしゃったことは、国は、何千人もの住民を率いて大変な苦労をして避難している町長の意見をもっと聞いてほしいということでした。例えば、このたびの計画的避難区域と緊急時避難準備区域の設定や一時帰宅の件についても、何の打診もなく、テレビの報道で初めて知って驚いているところに、ようやくファクスが一枚入っただけだったという町もありました。住民からは、なぜ自分の家に行ったら十万円の罰金が取られるのかと町長に詰め寄る、そんな場面を目撃することもありました。今後、損害賠償のことなど、ぜひ現場の声を聞いていただきたいと四人ともお話しになっていらっしゃいました。

 避難生活が長期化する中、町と県や国とのコミュニケーションの問題は今後ますます重要となると思いますので、まずは避難なさっている現場の声をしっかり聞いて、それぞれの地域性に応じたきめ細やかな対策を講じることができるような仕組みにするべきと痛感いたしました。

 現在、計画的避難区域になった地域には、避難する前に説明があり、また、国の窓口も役場につくり、住民の相談に乗ることになっています。これは大変重要な取り組みだと思っております。ぜひ、避難指示により既に避難している町役場の中にも、同様に国の窓口をつくるべきではないかと思っております。

 本来は、住民の要望は町が聞くことになっておりますが、今回の事故に関しては、住民からの要望を国が直接聞く窓口も必要だと思っています。地域によって事情は異なりますが、国の対応はできるだけ公平にするということが重要だと思っております。

 そして、現在、各町長が抱えている課題は、情報伝達とコミュニティーの維持です。いまだに二千人規模の避難所で段ボールで区切って生活している避難所もあり、いち早くホテルや民宿などに二次避難しているところもあります。

 前者は、プライバシーもなく衛生環境も非常に悪化しておりますが、避難している方たちは減少することがありません。なぜなら、町役場と一緒にいないと、さまざまな生活支援の情報が得られないからと聞きました。避難所の壁一面に張られた生活支援情報などを皆熱心に見ていらっしゃいました。また、避難所にいればほとんど無料ですが、外に出れば生活資金も負担しなければならなくなるからです。

 後者の場合、つまり、それぞれホテルや民宿などに分かれている場合は、その裏返しとして、生活環境はよくなりますが、行政からの情報がなかなか届きにくく、中には二百カ所にも分かれて避難している町もあり、コミュニティーから孤立してしまうというおそれがあります。町としても、情報伝達のために巡回したくてもなかなかできないという悩みがあります。現在、各町では、住民の九割程度の行方は把握できているようですが、遠く離れた県外に避難している方々へのフォローが課題になっています。

 避難なさっている方から話を伺うと、だれもが、とにかく一刻でも早く家に帰りたいと願っています。

 長期化する避難生活にとって必要なのは、生活資金と仕事です。生活資金は、既に東京電力が一世帯当たり百万円を支払うことになっており、避難なさっている方々もひとまず安堵なさったと思いますが、今後重要なことは仕事です。

 お金があっても、何もすることがなく時間が過ぎると、生きるエネルギーがなくなるような気がすると避難なさっている方から伺いました。当面は、避難している地域での雇用を何とか確保するとともに、町に帰宅後に始まる新しい町づくりのプランを避難なさっている方々でつくることによって、希望を持てるようにすることが重要だと感じました。

 以上、個人的に訪問してまいりましたが、さまざまな要望や御意見を伺い、今後の政策に取り入れることも原子力委員会の役割ではないかと痛感いたしました。

 第二に、福島原子力発電所以外の原子力発電所の立地地域の住民の方たちへの情報提供及び全国の国民への放射線、放射性物質についての情報提供についてです。

 福島第一、第二以外の現在動いています全国の原子力発電所の立地地域の住民は、自分たちの地域の発電所でも同様な事故が起きて、避難生活をしなければならないということを大変御心配になっていらっしゃると思います。まずは、不安に思っている住民の皆様の声をしっかりと聞くということが重要だと思っております。

 そして、緊急安全対策についても、単なる説明ではなく、納得のいくように御説明、そして御質問に答えていくということが大変重要だと思っています。

 二十五年前のきょう、チェルノブイリ事故が起きましたが、そのとき、私は食品の影響について大変不安になりました。今回も同じレベル7の事故となり、食品や飲料水に対する不安、子供への放射線影響に対する不安の声が原子力委員会にも多く寄せられています。この不安の高まりは風評被害につながる場合もありますので、今、放射線の専門家を活用した草の根からの丁寧な説明が有効な手段ではないかと考えております。

 現在は、原子力広報はほとんど行われておりませんが、私は、このようなときだからこそ、事故の概要や放射線の体への影響などについてわかりやすい情報提供が必要だと思っております。

 第三に、今後の原子力政策を検討するに当たって、国民参加の仕組みが必要であるということについてです。

 先日、原子力政策に関する報道機関による世論調査の結果が発表されました。幾つかの機関が発表されました。いずれも、原子力について現状維持が四〇から五〇%と、ほぼ過半数に近い数字でありました。すべて廃止にすべきだという意見は一一から一三%でした。私は、国民は冷静であり、資源のない日本において安定供給するためには、原子力をすぐに廃止することは現実的ではないということをよく理解していらっしゃると思いました。首都圏で実施された計画停電のとき、交通が混乱し、医療などの社会的な混乱を招いたということもあり、このような結果になったのではないでしょうか。

 しかし、だからといって、今までのように、国策だからとトップダウン的に原子力を推進することは難しいと思っております。まずは、国民的な議論を行い、国民の納得のいく上で原子力の利用を進めることが必要だと思っております。

 原子力委員会は、従来より広聴、広報を基本としておりますが、既に、この事故について六千四百通以上もの御意見が寄せられております。今後は、今まで以上に国民の声を真摯に聞き、政策への国民参加の仕組みを検討する必要があると思っております。

 以上です。ありがとうございました。

○川内委員長 秋庭参考人、ありがとうございました。
 次に、大庭参考人にお願いいたします。

○大庭参考人 このように、原子力委員会全体としての見解ではなく、原子力委員個人それぞれの見解を聞いていただくという貴重な機会を与えてくれたことに対して感謝申し上げたいというふうに思います。

 福島原発事故を踏まえて、原子力政策についての私の見解を述べたいと思います。

 まず、このたびの東日本大震災で被災なされた方々に改めてお悔やみとお見舞いを申し上げます。また、福島第一原子力発電所の切迫した状況下で避難を余儀なくされている方々に改めてお見舞い申し上げますとともに、この事態が、国民の皆様のみならず国際社会に与える多大な影響を深く憂慮し、重く受けとめております。

 また、避難されている方々へのさらなる支援体制の充実、及び補償の枠組みの構築が急務であると切に感じております。加えて、現場や対策本部で事態収拾に向けて懸命に努力されている皆様、また、海外からの支援組織及びその関係者の方々に敬意を表したいと思います。

 私は、国際政治を専門とする研究者であり、二〇一〇年一月の就任以来、原子力の知見を得つつ、委員としての業務を行ってまいりました。その際、私の役割は、特に二つあると考えてまいりました。

 一つは、国際社会の構造の変化を踏まえ、日本が今後どのように国民の利益を確保しつつ、近隣諸国や緊密な協力関係にある国々と利益増進を図り、かつ国際社会の公益に寄与していくかという、より広い観点から原子力政策の方向性を検討し、意見を述べるということです。

 それからもう一つは、原子力専攻ではない有識者として、原子力村のありようを客観的に考察し、いわば外からの視点を忘れず意見を述べるということです。本日も、そうした立場で見解を述べたいと思います。

 私は、原子力推進政策は、安全性の確保が大前提であるというふうに考えてきました。よって、今回の福島の事態を大変重く受けとめるとともに、この事故原因の徹底究明が必要であると考えています。

 先日、枝野官房長官が記者会見の際に、事故調査委員会を設置するという考え方を示されましたが、女川、東海第二と十分な比較も含め、技術的な原因を明らかにすることが重要だと思います。さらに、きのうの合同会見で細野総理補佐官も言及されましたが、危機対応に関し、特に初動態勢における意思決定がいかになされたのか、政府、事業者及び地方自治体も絡む意思決定プロセスについて十二分に切り込んだ詳細な原因究明が必要であると考えています。これらは、日本の今後の原子力のあり方の議論だけではなく、国際社会への信頼回復に向けた情報提供という意味でも、必ずやらねばならないことです。

 今回の福島原発の事故を受けて、多くの国で、原子力の廃止論も含め原子力政策についての議論が活発になされていることは承知しています。しかしながら、政策として原子力の撤廃の方向に明確にかじを切った国は、今のところ多くはありません。

 フランス、ロシア、アメリカは、安全性の担保について十分な対策をとる前提の上で原子力発電を維持していく方向です。また、中国、インドを初めとする国際社会の構造変動を牽引する役割を果たしている新興国、途上国においても、日本との協力も含め、今後も原子力の推進を継続する姿勢を示している国は少なくありません。現実にBRICS諸国は、原子力は将来の新興国のエネルギー構成で重要な役割を占め続けると、原発推進姿勢を鮮明に示しております。

 エネルギー需要の拡大が見込まれる中で、各国の原子力への期待が消滅する方向には簡単には向かわないと思います。すなわち、仮に日本が原子力発電の即時撤廃という政策をとったとしても、国際社会の多くの国は原発を持ち続けるということになります。

 日本の今後の原子力政策のあり方いかんにかかわらず、原子力発電導入国に対して、この福島原発の事故はなぜ起こったのか、また、事故の収拾を図るプロセスで、何が具体的な問題として関係者の前に立ちはだかり、それに対してどのような対策をとったのか、このようなことについての十分な知見を提供することは、我が国の国際社会に対する義務であろうと考えています。

 また、日本のエネルギー政策の中での原子力のあり方を見直すべきであるという意見がさまざまな場で出されています。このことに関しては、三つの点を踏まえた冷静な議論が必要であると考えています。一つは、エネルギーの安定供給の確保、二つ目は、国際社会全体として地球温暖化対策を進めていこうとする中で日本が掲げるべき目標、三つ目は、再生可能エネルギーの供給能力についての現実的な評価です。

 日本の近年のエネルギー政策の策定の際、低いエネルギー自給率とともに、高い中東依存度が問題になっていました。特に、中東諸国の情勢が混乱している現在、この中東への石油依存の問題はさらに深刻です。また、アジア諸国を中心に世界のエネルギー需要は急増しており、二〇三〇年には現在の約一・四倍になる見込みです。資源価格も継続的に上昇傾向にあり、また、投機資金の流入によって市場価格の変動幅は拡大しています。

 こうした中で、各国は、資源獲得のさらなる強化を目指して戦略を展開しています。また、日本は、ヨーロッパ諸国などと異なり、電力を外国から輸入できないという制約もあります。

 従来、原子力は、こうした厳しい状況において、我が国のエネルギー安定供給確保のための重要な手段の一つとして位置づけられていたと理解しています。そして、今回の福島原発の事故後の今現在でも、前述のような日本の置かれた状況は変わっておりません。

 また、地球温暖化への取り組みについて、鳩山前首相は二〇〇九年の九月、二〇二〇年までに一九九〇年比で二五%のCO2削減を目指す目標を掲げました。この目標について、現実可能性も含め議論があることは承知していますが、日本の国際的信用の維持は、日本及び日本国民が、グローバリゼーションの進むこの世の中において生きていく上での環境整備であるという観点から非常に重要なことであり、その目標の変更には慎重でなければならないと考えています。

 一部報道では、フィゲレス国連気候枠組み変動条約事務局長が、今月初めの記者会見で、日本政府の目標見直しに反対する姿勢を示したとのことです。

 いずれにせよ、日本が地球温暖化対策に主導的な立場で貢献せねばならないことには変わりがありません。

 先日、環境省が、再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査を発表し、その中では、風力発電で原発四十基分の発電可能性があるなど、再生可能エネルギーの将来に明るい見通しが示されました。

 もともと、日本のエネルギー政策は、一つのリソースに頼らない多様性を担保した形で行うべきとされていましたし、私自身、原子力政策大綱の策定会議の席上でもベストミックスの重要性を訴えてまいりました。その中で、再生可能エネルギーが果たし得る役割は大きく、また、現在の情勢を受けて、今後さらにその重要性は高まると思います。

 しかしながら、風力や太陽光の性質上の最大の課題である安定供給が難しいという事実は、まだ変わっていません。今後の再生可能エネルギー関連の技術革新には大きく期待をしています。しかしながら、原子力が果たしてきた役割を、少なくともすぐさま代替するとは考えておりません。

 これらの点を踏まえると、すべての原子力発電所の即時撤廃は非常に難しいと思います。よって、短期的には、既存の原子力発電所をいかに安全に稼働させていくかということが最重要課題の一つと認識しています。その際、現在の安全基準を見直し、十全の対策を徹底させることが特に重要です。

 他方、中長期的な原子力政策については、改めて議論した上で今後の方針を決めるべきであるというふうに考えております。その際、国際情勢も含めた日本のエネルギーの安定供給、地球温暖化対策としての達成目標、そして再生可能エネルギーについての技術的、経済的評価などの情報や知見を国民の皆様に十二分に共有していただく必要があると思います。

 さらに、日本社会が目指すべき方向性、すなわち今後の産業構造や社会構造のあり方についての議論やそこでの結論に沿って、原子力政策のあり方も決定されるべきと考えております。

 また、原子力行政、事業のあり方そのものも再検討が必要であると考えています。原子力発電は民間事業ですが、他方、我が国のエネルギー安全保障の一環として進めてきた国策でもあります。その性質上、政府が責任及び義務を負うべきであるというふうに考えています。

 また、原子力発電は十分過ぎるほどの安全対策が必要な事業です。

 これらのことを勘案すると、政府がつくった安全基準のもとで民間事業者が原子力発電を担う体制、経済産業省の外局として原子力安全・保安院というものがあるという現在の姿、そして助言機関としての原子力安全委員会のあり方といった安全規制の制度について、抜本的な議論がなされるべきです。

 さらには、総合的な原子力ガバナンスを目指す上で、我々原子力委員会も含めた原子力行政全体のあり方についても、根本からの議論が必要であるというふうに考えています。

 最後に、原子力発電所の事故に限らず、緊急時の危機管理にかかわるガバナンス体制について、三・一一以降の日本の経験は大きな課題を突きつけていると考えています。政府関係者、事業者、地方自治体の方々、NPOやボランティアの方々、さらには国際的に支援してくださった諸外国の関係者の皆様が懸命の努力をされたと考えておりますが、この経験を踏まえた上で、緊急時の危機管理に関するガバナンス強化を徹底的に図る必要があるというふうに考えております。
 以上です。御清聴ありがとうございました。

○川内委員長 大庭参考人、ありがとうございました。
 最後に、尾本参考人にお願いいたします。

○尾本参考人 おはようございます。
 福島の原子力の事故と原子力政策に関して、考えるところを述べたいと思います。

 まず最初に、原子力災害により、避難等多くの方々にさまざまな艱難辛苦をおかけすることになったのを、原子力関係者の一人としてまことに申しわけないというふうに考えております。

 私自身は、原子力工学を専攻した学生時代を含めまして、一貫して原子力にかかわってまいりました。大学を出た後は、電力会社で原子力発電の仕事をしてまいりました。かつて、三十年以上前になりますが、私自身、福島の地で勤務しておりまして、そこで親しみました大熊、双葉、富岡、浪江等々の地域の方々が、現在避難で非常につらい思いをされていることに、非常に心苦しく思っております。大変痛恨のきわみであります。

 私は、その後電力会社を離れて、国際機関IAEAにおきまして、途上国における原子力導入のための基盤整備支援等にかかわってまいりまして、二〇〇九年末に帰国後、二〇一〇年初めに原子力委員を拝命しました。委員会では週二日の非常勤の委員ですが、そのほかの日は大学に勤務している毎日であります。

 まず、福島事故との関係で、原子力委員会の役割は何かという点ですが、既にお話がありましたように、委員会の設置法と原子力災害対策特別措置法のいずれにおきましても、原子力災害に際しての委員会の役割が定義されていないところではありますものの、委員会としては、現在目を向けるべき重要な点は何かを適宜発信することが大切ではないかというふうに考えております。

 その観点から、四月五日の定例の委員会におきましても見解を出しておりますが、個人としても、至極当然なことではありますが、短期的には、一刻も早く事故を収束させて、生態系を含む環境への放射線による影響を最小限に抑えるべきこと、そして避難されている方々に今後の見通しを明らかにし、プラントの安全な冷却保管と汚染水管理に万全を期すること、さらに国内外の原子力発電所における事故未然防止方策、そして炉心損傷事故に至る場合をも考慮して、今回の事故から得られた教訓をできるだけ速やかに反映すべきこと、こういった考え方を述べております。

 今後さらに、環境の除染対策や廃棄物の処理処分、廃炉に向けた技術開発、あるいはこの分野への人材の傾斜配分といったことなどに政策的に取り組む必要が出てくるものと考えております。

 福島の事故を踏まえての今後の原子力政策全般のあり方につきまして語るのは、まだ事故収束とは言えない段階ゆえ早計かとは思いますものの、当面は、設置法上は安全委員会にゆだねられた事項が多いかとは思いますが、いずれの委員会に属する事項かということを余り気にすることなく、今、私が考えるところを原子力発電を軸に申し上げたいと思います。

 まず第一のステップとして、政府により、早期に客観的で中立な事故調査委員会が設置され、その場で事実関係の解明が体系立ってなされる必要があると考えております。その結果を、国際機関の場で世界の専門家のレビューも得て、世界じゅうに今四百三十基ある運転中の原子炉、さらには六十基を超す建設中の原子炉の今後の安全確保に早急に役立ててもらうことが重要であると考えます。

 既に、六月末にIAEAにおきまして大臣級会合が事故に関して開催される予定であるところ、まだ事故が収束していない今日において大変困難ではあるかと思いますが、例えばチェルノブイリ事故の場合には四カ月でIAEAに出された包括的なレガソフ報告、報告者の名前にちなんでこう呼ばれていると記憶しておりますが、このレガソフ報告に相当するファクトファインディングと、これに立脚して出された主要な教訓事項を含んだ報告がなされて議論される必要があるのではないかというふうに考えております。憶測や主観ではしっかりとした教訓事項は得られませんし、世界をミスリードする可能性があるというふうに考えます。

 第二に、利用に伴うリスク、すなわち核拡散、セキュリティー、安全の三つのリスクでありますが、このリスク管理が十分に行われるシステムのもとでの原子力発電の利用という、いわば資格要件を満足しているということの確認に、原子力安全委員会も含めて当面の原子力政策の軸が置かれるべきものと思います。

 ここでは、国内的な処理だけではなくて、安全基準や安全設計のレビューのやり方などについて国際的な枠組みの強化といった議論があり得るかと推察しますが、ここに福島事故を経験した国としての考え方を発信する必要があるというふうに考えております。

 工学技術の利用は、失敗を含む経験の積み重ねが重要で、世界における運転経験とデータ、これは今までに一万炉年を超える膨大な運転経験を踏んでおりますが、そこから得られた経験と教訓を生かして、技術を安全に利用することが大切と考えています。

 その観点からしますと、今まで得られた経験に比べて、歴史時間によるデータ蓄積に依存して、データも豊かにはない頻度の低い自然現象に関しては、原子力技術者一般は、より謙虚な姿勢が必要であったのではないかというふうに福島の事故を見て考えております。しかしながら、当時の知見に照らして限界があったのではないかとも同時に思っておりまして、まことに残念に思っております。

 第三に、その先ですが、将来の長期にわたる原子力利用に関しての議論は、原子力以外のさまざまな発電オプションの現実的な利用可能性、低炭素社会への移行シナリオとこれに伴う国民経済負担、さらには、今の市場価値評価には含まれていないが将来の世代にも及ぶ可能性のある負担、エネルギーの需給動向などを総合的に見て決めていく必要があるというふうに考えております。

 このように、エネルギー全体を見る必要があり、かつ、市場でのプレーヤーと需要家にその選択の多くがゆだねられるところかというふうに思っております。

 この中での、長期にわたって原子力の果たすべき役割につきましては、専門家あるいは国民の間にさまざまな意見があるのを聞きながら議論を進めていくのが当然であると思いますが、既に事故前から進めておりました原子力政策大綱の発電の中間取りまとめ文においても示しておりますように、核不拡散や核セキュリティーに関する国際約束を遵守し、原子力発電が安全性、信頼性、経済性に関してすぐれたエネルギー供給であることを絶えず示していくことがどこまで可能か次第というふうに考えております。

 なお、市場でのプレーヤーと需要家にその選択がゆだねられるというふうに申しましたが、原子力とその他のエネルギー源との比較におきましては、市場価値以外の要素、すなわちいわゆる外部性を含めた考察が、諸外国においてもとられてきている原子力政策の背景にあるというふうに考えております。

 具体的には、オイルショック後に、エネルギー供給構造の脆弱な国にとっては、短期あるいは長期で見ても、石油、ガスと異なり価格が安定で、資源供給においても安定性のある電源の持つ価値は重要というふうに考えて原子力を進めてきた国がたくさんあるわけであります。その後、八〇年代以降、温室効果ガス放出が長期的にもたらす可能性のある経済と環境への影響も考慮して、低炭素社会への移行は原子力なしでは容易ではないというふうに多くの国が考えてきたのも事実であると思います。

 なお、今日、原子力事故は、その発生確率が低くても、一たん発生すると経済と環境への大きな負担をもたらすという現実を前にして、原子力政策の中では、こうした市場以外の要因も考慮した議論を行う必要があると思っております。

 最後に、原子力委員としてこれまでの原子力政策の形成に関して持ってまいりました考え方について少しお話ししたいと思います。

 開発途上国を含めて世界の共有する価値観は、持続可能な発展を追求することだというふうに考えております。経済、社会、環境の三つの次元で見たときに、原子力は重要な選択肢の一つとして、その技術開発、基盤整備、国際協調が政策上重要という考えをとってまいりました。もちろん、今後につきましては、ポスト福島の環境の中でよく検証していく必要があると考えております。

 しかしながら、とりわけ重要だと考えてまいりましたのは、第一に、今申しました持続可能な発展の追求という世界が共有する目標に照らして考えること、第二に、国際機関で諸外国を見ながら仕事をしてきた経験から、日本が狭い世界にこもることなく、世界各国の経験をよく見て、よい慣行を広く習得し、世界の標準から乖離することのない形で原子力利用を進めること、第三に、長期にわたる技術開発で国際協調と国際標準化を考えるべきこと、第四に、技術リスクの管理には、世界からの多様な意見に耳を傾けていく必要があるという立場をとってまいりました。

 この最後の、世界の多様な意見に耳を傾けるという観点ですが、原子力発電に関しては、開発途上国が、その経済成長、人口増加、生活水準の改善に伴い急速に増加するエネルギー需要を、安全、セキュリティー、核拡散というリスクは最小限にしながら原子力オプションをとろうとしていること、そして、そういった数が数十に及ぶことを国際機関の勤務を通じて知っております。

 原子力を運営する基盤が脆弱な国において満足すべき運転基盤、これは法的なものの整備から人材育成、産業基盤等を含む非常に広範なものでありますが、この整備に国境を越えて日本が積極的な支援をすべき、さらには国際的な安全レビューの仕組みもつくるべき、そうしないと、さきに述べました三つのリスクが顕在化しかねないというふうに考えてまいりました。

 そういう立場で、原子力委員会が深くかかわっております、アジア諸国の原子力開発にかかわるFNCAと呼ばれる会議におきましても、原子力基盤整備に貢献してまいりました。

 昨年十一月に開催されたFNCAの大臣級会合におきましても、地震、津波、火山といった自然災害の多いアジア地域で原子力開発を行う場合に、専門的な技術と経験をできるだけ共有し、さらには、他国であれ、設計のレビューをも考えて、お互いにリスク低減を進める必要があるということを会議の場で提言してきたところであります。しかしながら、日本がまず第一に問題視される国になってしまったのは、まことに皮肉で、残念なことであるというふうに考えております。

 以上、福島事故及び原子力政策に関する私の考えを述べさせていただきました。
 ありがとうございます。

○川内委員長 尾本参考人、ありがとうございました。
 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
posted by - あじゃ - at 09:00 | TrackBack(0) | でんき関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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